箱根・思い出のアート 1(旅行 連載小説 短編)

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季節は10月、秋が深まってきました。ここは都内にある美術大学の学生食堂です。ソウタとリサがおしゃべりをしながら昼食を摂っています。

ソウタは油絵を専攻している学生です。4年生なので今年度、大学を卒業する予定です。長男のため実家に帰ることが決まっています。実家は町工場を経営しています。絵の勉強のために上京することはソウタの精一杯のわがままだったのです。身長は170cm。筋肉質で色黒。同じ科の極彩色で派手な服装の仲間達に比べると普通の服装なので地味な印象です。人ごみの中にいると目立たない感じです。性格は温厚ですが、心の奥にはいつでも芸術に対する情熱があります。子供の頃から絵を描くことが大好きでした。

リサもソウタと同じ大学で油絵を専攻している学生です。3年生なので大学を卒業するのはもう1年先の予定です。都内の実家から大学に通っています。末娘なので両親や周りの皆から可愛がられて育ちました。小さい頃から絵画教室に通い、賞も何度か受けたことがあります。絵の勉強は生活の一部だったので大学で油絵を学ぶことはごく自然なことでした。身長は150cm。色白できゃしゃな印象です。ソウタと同様、美術系の大学生としては珍しい、地味な服装が好きでした。性格はやさしく、おとなしいのですが、楽しくおしゃべりをするタイプです。

ソウタとリサは2年前に知り合いました。リサが新宿御苑でスケッチをしているときに知り合いました。ソウタは気分が滅入ったときには新宿御苑を散歩することにしていました。そこは大都会の真ん中で自然を感じることができて、ソウタにとってとても大切な場所だったのです。楽しそうにスケッチをしているリサを見かけたソウタはどんな絵を描いているのか興味があってリサに近づきました。リサのデッサンはとても正確でしかも男顔負けの迫力がありました。ソウタは思わずリサの絵に引き込まれてしまいました。ソウタが話しかけるとリサは笑顔で受け答えをしました。二人とも同じ大学に通っていることが判ると意気投合しました。それ以降、頻繁に会うことになり、やがて周囲も認めるカップルになりました。

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「ソウタは卒業したら実家に帰っちゃうんだよね・・・。」

「うん、そうなんだよ。親父の後を継がなくちゃいけないからね・・・。」

「そうだよね・・・。」

「リサは卒業までもう一年間あるね。」

「うん。」

「進路はもう決めた?」

「うん、プロの画家になるのは私はちょっと難しいので高校の美術教諭になろうかな、なんてね。」

「リサは教職課程も取っていたものね。」

「うん。 ソウタは絵、やめちゃうの?」

「仕事はレンズを作る町工場なので、絵はまったく関係が無くなっちゃうんだけど、でも絵を描くことはやめないよ。」

「そっか、それならよかった・・・。」

二人とも昼食を食べ終わりました。しばらく、絵の題材の話をしました。
学生食堂を後にしようとソウタが立ち上がったときに、リサが唐突につぶやきました。

「何か二人の思い出を作りたいな・・・。」

ソウタは少し驚きましたがすぐに答えました。。

「そうだね、どんなことがいいかな?」

「ソウタ!旅行はどうかな?」

「いいねえ。」

「どこか行きたいところある?」

ソウタは少し考えます。

「そうだ、箱根に行ってみたいところがあるよ!」

「渋いね、温泉入れるね。」

「温泉卵も食べることができるよ。」

「それいい!」

「実は箱根には彫刻専門の美術館があってね。前から一度行ってみたかったんだよね。」

「あっ!それ知ってる。屋外に大きな彫刻がたくさん展示してあるところだよね。」

「そう!正解!」

「やったー!」

「でも箱根だと日帰りはちょっと無理かな? 一泊二日、電車で行く旅になりそうだけど、リサは大丈夫かな?」

「私は大丈夫!」

「いつにする?」

「今度の週末はどう?ソウタは忙しい?」

「今度の週末なら忙しくはないよ。大丈夫。」

「スケッチする時間あるかな?」

「もちろん、僕もスケッチブック持って行くよ。」

「楽しみだね!」

「そうだね!」

こうして二人は箱根へ旅行することになりました。

(つづく)

良い旅を!

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