みちのく・弘前にて 1(旅行連載小説 短編)

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サキ・東京にて

津軽サキは青森県弘前市の出身。高校卒業後すぐに上京しました。デザインを学びながら働けるような仕事に着きたかったのですが思うようには行かず、それでもデザインされたものを扱うアパレル会社に就職しました。人には隙(すき)を見せないように華やかに暮らしていました。お給料は決して悪くはなかったのですが、幼少期、家が経済的にかなり苦しく不安定な気持ちで過ごしたことからお金の心配をしたくない気持ちが強く、玉の輿を狙っていました。けれども、そんな都合の良い出会いがあるわけもなく、いつの間にか年齢は20代も後半に入ってしまいました。

とても純粋な青年マナトに出会い(人として好きだな・・・。)と思ったので付き合ってみましたが経済力が不安だったのでお金持ちの他の青年に乗り換えてみましたが、遊ばれて捨てられてしまいました。お金を持っていることも大事だけれど、本当に好きな人と結ばれたほうが幸せなのではないかと思いマナトと再会するべく空港へマナトを迎えに行くもマナトの新しい恋人ミウの執事によってマナトと話もできないままマナトが乗る車にも乗せてもらえず、マナトへの接近も禁止されて空港に一人置き去られてしまいました。埃まじりの強い風が吹き抜ける空港の駐車場でポツンと一人残されたサキは思いました。

(私って最低だわ。男の人を経済力だけでしか見てこなかったからかな、このざまだわ・・・。マナトさんもごめんなさい、ひどい振り方をしたわ・・・。)

その後、サキの勤める会社は倒産。サキがたくさん大事に持っていた自社株もすべて失われてしまいました。折からの就職難でサキが望むような再就職はままなりません。失恋・失業・失敗が重なりサキは絶望しました。ぼーっとした気分で過ごしていました。生きていることの意味さえ考えてしまいました。そんなとき、母から電話があり、実家で10年ほど前に亡くなった祖父を皆で想うための会を行うということを知りました。東京にいてもできることが何もないのでとりあえず帰ってみることにしたのでした。一刻も早くこの状態を脱したいと思ったのでサキはその日よりも数日早く帰ることにしました。

弘前へ

大き目の旅行鞄に数日分の着替えと身の回りのものを詰めてアパートを後にしました。落ち込んでいるサキとは対照的に東京はとても天気が良く、秋の日差しは心地良いものでした。東京駅から東北方面の高速鉄道に乗ります。サキが乗ろうとした列車は全席指定席でしたので問題なく席に座ることができました。

(理由は良く分らないけど、指定席は自由席よりも気分が楽なのよね・・・。)とサキは思いました。車窓の景色は素晴らしいスピードで滑らかに後ろへ流れて行きます。

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盛岡駅で下車します。そこから高速バスに乗り換えて弘前へ向かいます。東京盛岡間は約3時間半。盛岡から弘前は2時間ちょっとでした。

駅に着くととても懐かしい気分になりました。

(そうだ、ここから旅立ったんだよね、東京での成功を夢見て・・・。)

駅を出ると弘前の商業施設の建築物がたくさん静かに建っていました。大きな都市ですが静かなたたずまいです。

(ここは変わらないな・・・。)サキはそう思いました。

バス乗り場へ向けて大きなカバンを肩にかけながら歩いていると3歳くらいの小さな女の子が歩道の上にしゃがみこんで泣いていました。サキは東京だったら(きっと誰かが助けてあげるのだろう・・・。)と思って無視していたものです。けれどもここは歩行者もとても少ないのです。一度通り過ぎましたがなぜか放っておけずに戻ってきてその子の前にしゃがみこんで声をかけました。

「どうしたの?」

女の子は泣いたままです。

「お父さんかお母さんは?」

女の子は泣いたままです。

サキはカバンを地面に置いてチョコレートを出しました。

「チョコ食べる?」

サキはチョコレートの包装を剥(はぎ)取ってチョコレートを見せました。

「おんろー」(わーお)

「けるし!け!」(あげるよ!食べて!)

「ん!」(うん!)

「たんげめしきゃ!」(すごくおいしいよね!)

「ん!ありがとごす!」(うん!ありがとうございます!)

女の子は泣き止んだけれど、さてこの子のお母さんはどこかな?とサキは周囲を見ますがそれらしい人は誰もいません。(これは交番に連れていくしかないかな?)と思いました。

「せばだば、交番いが!」(それじゃあ、交番行こう!)

「ん。」(うん)

サキが手をつないで歩きだすと女の子は素直についてきました。駅前の交番に連れて行きました。

(つづく)

良い旅を!

※ サキと弘前の人達との会話は雰囲気を出したいのでなるべく津軽弁で書きたいと思います。津軽弁はフランス語かと思うくらい外国語的なのでネイティブでない私にはとても難しいのです。もし間違っているようであればご教示願います。時間がかかる場合もありますが正しく表記し直しますのでよろしくお願いいたします。津軽弁を含めて東北の言葉はとても美しい言語だと思います!

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