みちのく・弘前にて 8(旅行連載小説 短編)

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母校へ

サキは弘前駅までバスで移動しました。母校を見たくなり、通っていた高校へ向かいました。彼女が通っていた高校は弘前駅から電車に乗って数駅のところにありました。普通科の高校でした。
校門から入るとそこはサキが通っていたころのままでした。建物も樹々も当時のままです。懐かしさがこみ上げてきます。

(あのころ、楽しかったな・・・。勉強は微妙だったけど、絵を描くのは楽しかったなあ・・・。)

平日なので学校は普通に授業中でした。けれども、サキはどうしても高校時代に自分が入っていた美術部の部室を見たくなりました。事務室に行ってみました。当時の事務員さんは一人もいませんでした。けれども卒業生であること、また美術の先生に会いたい旨を伝えると美術研究室に内線電話をしてくれました。幸いにも美術部の顧問だった五所川原テツ先生はまだ在職されていました。

「何んぼぞ。先生は研究室サいきやっしゃでゃし。」(どうぞ。先生は研究室にいらっしゃいますよ。)

と笑顔で伝えてくれました。

「ありがどーごしござでゃ。」(ありがとうございます。)

サキは一礼して事務室を出ると美術研究室へ向かいました。校舎内も昔のままです。掲示板に『美術部員募集 アートを極めよう!』という部員募集の張り紙がありました。(あのころ新入部員が集まらなくてたいへんだったなあ・・・。)ふとそんなことを思い出しました。

美術研究室にて

美術研究室は美術室の隣にありました。ノックしました。

「おはいりけろ。」(おはいりください。)

扉を開けると五所川原先生がにこやかに出迎えてくれました。

「良ぐ訪きゃてぐれますたぁーきゃ。」(良く訪ねてくれましたね。)

「はい。先生おがへんだで良がたじゃ。」(はい。先生お元気そうで良かったです。)

「何んぼだが?今も絵ば描いてでゃだな?」(どうですか?今も絵を描いていますか?)

「いえ。忙しぐ暮きやしていらうちサ描ぐごどば忘れてじょいした。」(いえ。忙しく暮らしているうちに描くことを忘れていました。)

「んだんじか。また描きてどきサ描けいばいいじゃし。」(そうですか。また描きたいときに描けばいいですよ。)

「はい。ありがどーごしござでゃ。」(はい。ありがとうございます。)

先生は授業の合間に油絵を描いていました。

「弘前城の絵ば描かれていたんだが?」(弘前城の絵を描かれていたんですか?)

「んだし。工事のたまなぐサ天守ば動かす作業ばしていらどきの様わらしだし。」(そうだよ。工事のために天守を動かす作業をしているときの様子だよ。)

「こしたらやませサして動かしたんじゃきゃ。」(こんな風にして動かしたんですね。)

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「んだ、曳家(ひきや)ど言ってレールば使って70メートルも動かしたんだし。」(うん、曳家(ひきや)と言ってレールを使って70メートルも動かしたんだよ。)

「あんサ大きのものが持ち上がらんじゃきゃ。」(あんなに大きなものが持ち上がるんですね。)

「んだっきゃ。持ちあげたんだきゃ。」(そうだね。持ちあげたんだね。)

「すごいじゃきゃ。」(すごいですね。)

「どんだば。」(すごいね。)

二人で笑いました。

「どごで津軽さん。なはどしてらば?」(ところで津軽さん。あなたはお元気ですか?)

「はい、落ち込んだりもしますたぁーが、お陰様で心ど体はがへサのりますたぁー。」(はい、落ち込んだりもしましたが、お陰様で心と体は元気になりました。)

「のりますたぁーってごどは具合が悪り時があっだってごどだが?」(なりましたってことは具合が悪い時があったってことですか?)

サキは今までのことをすっかり話しました。

「んだでしたか。それはてえぱだでしたきゃ。」(そうでしたか。それはたいへんでしたね。)

「いえ、もう大丈夫でんだんじ。」(いえ、もう大丈夫そうです。)

「人生で大切のごどの一つは健康じゃ。こいかきやもてえぱだの時はあらど思でゃが心ど体は大切サすてけろきゃ。」(人生で大切なことの一つは健康です。これからもたいへんな時はあると思いますが心と体は大切にしてくださいね。)

「はい、ありがどーごしござでゃ。」(はい、ありがとうございます。)

「いや、実はわぁの同級生が一人が入院していてきゃ、健康は大切のごどだのあ。ど思ていたんだし。」(いや、実は僕の同級生が一人が入院していてね、健康は大切なことだなあ。と思っていたんだよ。)

「んだでしたか。のんど申し上げたきや良いか・・・。」(そうでしたか。なんと申し上げたら良いか・・・。)

「いやいや、そいづはもうじき退院すらかきや心配はねし。腰の椎間板ヘルニア手術だったんだっきゃ。この世の終わりみての声で電話してぐらものだかきやわんつか心配しちゃったんしたばってきゃ、手術は大成功だったんだりさ。」(いやいや、そいつはもうじき退院するから心配はないよ。腰の椎間板ヘルニア手術だったんだよね。この世の終わりみたいな声で電話してくるものだからちょっと心配しちゃったんだけどね、手術は大成功だったんだってさ。)

「それは良がたじゃきゃ。」(それは良かったですね。)

(つづく)

良い旅を!

会話の部分はネットのウエブサイトや翻訳サイトを駆使して津軽弁を書いています。ネイティブではないので間違っているところもあるかもしれません。もし気づからた場合はお知らせください。

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