欧州ミュージアム巡りの旅 1(旅行連載小説短編)

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チエコとサブロー

チエコとサブローは八王子で二人暮らし。結婚して40年。苦労もありましたが、今では悠々自適な生活を送っています。というのもチエコは都の職員をサブローは出版社をそれぞれ定年退職して二人とも年金暮らしをしているからです。家のローンも返済が終わっているし、子供たちも社会人として巣立って行きました。にぎやかだった家もすっかり静かになり、また二人だけの生活に戻ったのでした。

大手不動産会社が開発した造成地の緩やかな斜面に造られた長い坂道の途中に二人の家はあります。車は2台停めることができます。小さな庭も付いていてあまり大きくならない種類の木が数本植えられています。芝生もよく整備されています。家は一戸建てです。築35年ですがこちらもよく手入れが行き届いているので古さは感じません。二人の家は明るくて快適で特に不満はありません。近隣とも適度なお付き合いで穏やかな日常が続いています。

二人は中肉中背で年齢の割にはとても健康です。チエコはカルチャースクールで書道を習うのを楽しみに暮らしています。サブローは自分の書斎で読書三昧。しいて言えば二人とも体重のコントロールだけが課題です。

ただし、チエコの目下の心配はサブローが最近無口になってきたことなのです。もともとは冗談好きな明るい性格だったのですが、このごろは訳もなくふさぎ込むことが多くなったのです。病院に連れて行かなければいけないというほどではないのですが・・・。

三鷹へランチに!

チエコは、とある金曜日に中野に住む友人と昼食に出かけることになりました。三鷹でランチをしようということになっていました。チエコは少しおしゃれをして出かけました。

中央線に乗って三鷹で降りました。三鷹は自動改札がずらりと並ぶ乗降客の多い駅です。平日のお昼頃でも人が多く活気があります。友人のアケミは南口を出たところで待っていました。服装はシックですが華やかな印象の同じ年頃の女性です。待ち合わせの人は大勢いましたがすぐに判りました。

チエコは駆け寄るとアケミに声を掛けました。

「あらっ、お待たせしたかしら?」

「ううん、今来たところよ。」

「アケミ元気だった?」

「うん、まあまあ。チエコは?」

「悪くはないわ。」

「そうね、お互い特別いいことがあるわけでもなく、と言って困ったこともなくといったところかな?」

「そうね、とりあえず穏やかな時間を過ごせてるのよね。」

「じゃあ行きましょうか?」

「そうですね。」

 

二人はお店のある方向へ歩き始めました。とりとめのない世間話をしながら歩いていきます。

歩道も人が多くてにぎやかです。やがて目的のお店が見えてきました。

「あっ着いた!ここよ!」

「へえ、ここなのねえ。」

「そう、いい雰囲気でしょ。」

「そうね。」

和風で落ち着いた造りの店構えです。

「お魚が美味しいらしいわよ。」

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「お魚?いいわねえ。」

「じゃあ入りましょうね。」

二人は駅からほど近い和食のお店に入りました。お店は満席に近く賑わっていました。活気があります。長身でよく日に焼けた店員のお兄さんに予約してあることを伝えると、にこやかに対応してくれました。

「喜んでご案内させていただきます。ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ!」

とても調子の良いお兄さんが小上がりの席へ案内してくれました。チエコとアケミは二人で向かい合って座ります。メニューを良く見てから『店長の気まぐれおまかせコース』というメニューがあったので二人ともそれにしました。

注文が終わっておしぼりで手を拭いているとアケミが言いました。

「チエコ? 言いにくいんだけどね、あなたなんだか今日はちょっと浮かない顔をしてるよ。」

「えっ?判るの?」

「えっ?図星?」

「うん、ちょっと悩みがね!」

「それならこのアケミ先生に話してよ。なんでも解決するわよ!」

「本当?それじゃあ人生相談をお願いしちゃおうかな?」

「まかせておいて!」

「実はね、大したことじゃないんだけどね、私の夫がこのごろ無口でね、昔は冗談を言うのも好きで楽しそうな人だったんだけどね、最近はちょっと落ち込んでいるときもあるのよね。何だかちょっと心配でね・・・。」

「ああ、それ解る。私も同じだから。」

「そうなの?あなたも?」

「うん、男の人ってさあ、仕事人間が多いじゃない?退職していざ自由になると何をしたらいいか分からないという人も多いのよね。人生の目的を失ってしまったような・・・。」

「ああ、それ言えてるかもね。まさにそれだわ。」

「でしょ?でもね、その状態ってちょっと危なくて、鬱になったりとか認知症になったりするとまずいのよね。」

「それは困るわ。なんとかならないの?」

「それが難しいのよ。生きる目的を見つけてあげることが大事だとは思うけどね。」

「生きる目的といっても趣味なら読書が大好きなようだし、今さら働いてもらうわけにもいかないわよねえ。」

「そうね、でもね読書はインドアのものよねえ、もう少しアウトドアというか外に出るような趣味もいいんじゃないかしら?」

「外?」

「そう、スポーツとか、習い事とか、旅行とか。」

「スポーツは苦手なのよね。習い事も好きではなさそうだわ、三日坊主というか・・・。あとは旅行かなあ。今まで二人とも忙しすぎてあまり旅行には行けてないのよね。」

「私は旅行が好きなんだけど夫は旅行が苦手だからそこが問題なのよね。チエコのところは旦那さんが旅行好きだといいんだけれど・・・。」

「そうねえ、どうなのかな?今度訊いてみるわね。」

「もしも、旅行が大丈夫そうだったらご主人の行きたいところを旅行先にすればいいと思うわ。ご主人もあなたもリフレッシュできるといいわね。」

「そうね、どうもありがとう。とても良いヒントをいただいたわ。頑張ってみるね。」

「ええ、頑張ってね。第二の人生は長いんだからね。」

「うん。」

店員さんが先付けを運んできました。

「さあ、いただきましょうか。」

「そうですね、いただきましょう!」

(つづく)

良い旅を!

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