欧州ミュージアム巡りの旅 10 (旅行連載小説短編)

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Photo:Wikimedia Commons SElephant

大英博物館へ

二人は朝食を済ませると一度部屋に戻りました。貴重品や持って行く物以外の荷物はすべてスーツケースに入れてカギを掛けました。チエコもサブローもパスポートや航空券など貴重品を入れた入れ物はシャツとタートルネックの間に隠すようにして掛けているので外からは判りません。サブローはジャケットをはおり手ぶらの状態で出かけます。サブローに言われてチエコは小さな薄いバッグを肩から幼稚園掛けしました。財布とスマホと小さな化粧ポーチ、ウエットティシュ、ポケットティッシュが入っています。その上からジャケットを着ました。サブローは財布とスマホだけをジャケットに入れて持ちました。

実は出発前に旅行社の担当者さんから「大英博物館の中は色々な人がいるので気を付けましょう!」と言われていたのです。気を引き締めて出発します。

宿の名前と電話番号、宿の住所、部屋の番号をメモして持ちました。これは迷子にならないための準備です。

宿を出て歩き始めました。「大英博物館へは、ラッセルスクエアの公園を横切って博物館裏のエントランスまでが徒歩10分くらい。」と聞いていたのですが、実際には話をしながらゆっくり歩いたので20分ほどかかりました。

すばらしいことに大英博物館は入館料が無料なのです。入り口で有料(2ポンド)のカラーマップを二人分購入しました。また、日本語の音声ガイドも借りました。

大英博物館の収蔵品数は約800万点です。膨大な分量なので、常時展示されているものは約15万点なのだそうです。

サブローがどうしても見たいものは「ロゼッタストーン」と「エジプトのミイラ」です。その他には「パルテノンにあったエルギン・マーブルと呼ばれている彫刻」、「モアイ像」、「藪の牡山羊」、などです。実は日本の浮世絵も多数収蔵されているようです。判っていたことではありますが、とてもとても広いので短時間で全部見るのは無理そうです。

チエコとサブローは案内図と音声ガイドを頼りに、まずはエジプト関係から見学して行きます。

ロゼッタストーン

(The Rosetta Stone)

展示室4にありました。ロゼッタストーンは紀元前2世紀のエジプトで作成された石碑のようなものです。18世紀末(1799年8月)に遠征中のナポレオンの部下が西デルタ地方でロゼッタ城塞を築造中に発見しました。ナポレオンがイギリスに敗北するとこのロゼッタストーンはイギリスに接収されて大英博物館に収められました。

このロゼッタストーンには古代文字が記されています。上段からヒエログリフ(神聖な掘り文字)、中段にデモティック(普及文字)、下段にギリシャ文字が刻まれています。当時、ヒエログリフは解読不能と言われていましたが、19世紀にはフランス人の学者シャンポリオンが解読に取り組みました。その解読にはロゼッタストーンが不可欠だったと言われています。そこにギリシャ文字が書かれていたことが大いにヒントとなったようです。彼は他にオベリスクの文字やコプト語などとも比較研究をしました。その結果、ヒエログリフが「表音・表意・仮名」などからなることを発見して解読に成功したのでした。

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本物はもちろん大英博物館にあるのですが、展示されているものはレプリカのようです・・・。

それでも、教科書で見た写真と同じものを見ることができてチエコもサブローも胸が熱くなりました。

大英博物館はエジプト関連の展示はたいへん充実しています。ロゼッタストーン付近にも大きなファラオの彫像が多数あり見ごたえがあります。

ロゼッタストーンのある展示室とミイラのある展示室は離れているのですが、サブローはエジプト関係の物はまとめて観たかったので他の展示は取りあえず飛ばしてミイラを見るために移動することにしました。

 

ミイラと内棺

(Mummies・The gilded inner coffins)

ミイラと内棺は展示室63にあります。
ここへはモアイ像のある展示室の奥にあるエレベーターでイギリス式の3階へ上がると行けます。ミイラはここにあるのです。今でもそうかは判りませんが、昔は英語で「マミールーム」と書かれていました。「マミー」はお母さんではなくて「ミイラ」の意味なのです。

チエコは頑張って観てみることにしました。サブローに寄り添って入って行きました。

思いがけずたくさんのミイラや棺が展示されています。圧倒されました。

同じ展示室内には内棺もあります。古代エジプトでは木棺の中に金箔を施した木製の内棺が納められていました。テーベの女性司祭ヘヌトメフトのものと言われる内棺には表面にイシスやホルスの姿が表現されています。繊細で美しいものです。

カノプス壺やスカラベなど副葬品も見学することができます。

カノプス壺はミイラを作るときに取り出したものを収める容器です。4本セットになっていることが多く、ミイラとセットで王家の谷などに納めたようです。美しい出来のものもあります。

スカラベはフンコロガシという虫をデザイン化したものです。古代エジプトの人々はフンコロガシの持つ生命力にあやかるためにお守りとして身に着けていたそうです。クレオパトラがエメラルド製のスカラベを多数制作させて部下や大事な人にプレゼントしていたことは有名な話です。

エメラルドは高価なのでちょっと無理ですが現代でも様々な材質でスカラベは作られています。エジプトのお土産の一つですね。

サブローは大興奮でした。

「ミイラは寿命になった人があの世の世界で復活したあと地上に戻ってくるときに必要であると考えて造られたものらしいよ。身分の高い人が大真面目で取り組んだものなので真摯な気持ちで見学した方がいいね。最近の研究では遺伝的なことや当時の食ベ物事情、病気などについてもかなり判ってきているようで科学的な研究にはとても役立っているようだよ。それにしてもエジプトの遺物は大分海外に流出してしまったんだよね。そのためにエジプトの全貌を知るためには複数の博物館を見る必要があるらしいよ。まず第一はエジプトのカイロ博物館。そしてイギリスの大英博物館、フランスのルーブル美術館、アメリカのスミソニアン博物館などだね。日本の東京国立博物館にも一体のエジプト由来のミイラが常設展示されていたと思うよ。」

などと眼をキラキラさせて語っていますがチエコはたくさんのミイラと大勢の見学者のために少し気分が悪くなりました。

「私、ちょっと気分が悪くなっちゃったよ・・・。」

「えっつ? そうか、ちょっと刺激が強かったかな?」

「うん・・・。」

「どこか休めるところへ行こうか?」

「うん。お願い・・・。」

この辺りは生々しい展示もありますので心臓の弱い方はダメだと思ったら急いでスルーする方が良いかもしれません。あるいは初めからパスするのもありです。

(つづく)

良い旅を!

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