欧州ミュージアム巡りの旅 11 (旅行連載小説短編)

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(※ 写真はイメージです)

博物館でアフタヌーンティー

サブローは正面入り口のグレート・コートの階段を上ったところに、表からは見えない位置にあるレストランがあることを思い出しました。

「博物館の正面入り口の上にレストランがあるからそこで休もうね。」

サブローはチエコを優しく支えながら言いました。

「ありがとう・・・。」

二人でゆっくり正面入り口の方へ歩いて行きます。並ばないといけないかな?と思ったのですが、意外にもあっさり入ることができました。優雅で落ち着いた雰囲気です。奥の方の席に案内されました。サブローは椅子を引き、チエコを座らせてから自分も向かいの席に座りました。本格的なアフタヌーンティーで有名なお店ですがランチもディナーも食べることができそうです。

「気分はどう?」

「少し良くなってきたかな?」

「そうかあ、それならとりあえず暖かいものを飲む?」

「ええ、さっぱりしたものがいいわ。」

店員さんに、二人とも暖かいものが飲みたくてそれほど食欲はないという事情を説明するとアフタヌーンティーのセットを用意してくれるとのことでした。予約してなかったしアフタヌーンティーが開始される15時よりも前だったけれど特別に体調に配慮してくれたのかもしれないと思いチエコは店員さんに感謝しました。

紅茶はメニューの 中にある8種類の中から選べました。良く分らないので店員さんのおすすめにしました。しばらくすると店員さんが熱いティーセットを持ってきてくれました。ミルクも付いています。

暖かい紅茶を飲んだらチエコの表情にゆっくりと赤みがさしてきました。

「ほっとしたわ。」

「よかった!ごめんね、ちょっと辛かったね。午後はどうしようか?もう帰ろうか?」

「ううん。私、もう大丈夫だと思うわ。」

「それならいいんだけど、気分が悪くなったらすぐに外に出るから我慢しないで言ってね。」

「うん。ありがとう。」

店員さんがサンドイッチを持ってきてくれました。チエコも普通にサンドイッチを食べることができました。紅茶をお替りしました。チエコも気分が良くなってきたのかよく話ができるようになってきました。いつものチエコに戻ったようです。

店員さんがサンドイッチのお皿を下げてくれた後で、アフタヌーンティーでよく見かける特有のスタンドを二つ持ってきてくれました。スタンドは2段になっています。上段にはスコーンが2種類載っています。ジャムとクロテッドクリームがガラスの器に入っています。下段にはケーキが4種類。アーモンドスライスが乗ったバターたっぷりのカップケーキ、チョコペースト入りのマカロン、チョコレートケーキ、甘さ控えめのレモンタルトが載っていました。甘いものが大好きな二人は美味しく完食しました。

もう一杯ゆっくりと紅茶を飲んでからお店を出ることにしました。

ロンドンのアフタヌーンティーの平均的な価格からするとかなりリーズナブルなお値段のようです。店員さんに感謝の意味を込めて支払額とは別にチップをお渡ししました。笑顔で送り出してくれました。
思いがけなく本場ロンドンでアフタヌーンティーをいただくことができました。

チエコに配慮してサブローはポイントだけを押さえてみることにすると言いました。サブローが見たかったものを中心に選んで移動します。あと見たいものは「パルテノンにあったエルギン・マーブルと呼ばれている彫刻」、「モアイ像」、「藪の牡山羊」、「日本の浮世絵」です。

ホルサバードのラマッス

(Assyrian gateway figures)
展示室6には一対の巨大な像があります。古代アッシリアの都城ドゥル・シャルキン(現在のホルサバード)東門にありました。一枚岩から造られた人面獣身有翼の像です。立派な翼をもつ雄牛の姿で、ひげをたくわえたお顔が立派です。脚はかなりユニークで、正面から見ると2本ですが、真横から見ると4本、合計で脚の数は6本です。アッシリアは紀元前に隆盛した現在のイラク北部地域のことです。

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パルテノンの彫刻

(The Parthenon Marbles・Elgin Marbles)
展示室18にはサブローが見たかったギリシャのパルテノンの建物にあった彫刻がありました。パルテノンマーブルとかエルギンマーブルと言われています。それらはギリシアのアテネにあるパルテノンを飾っていた彫刻群のことです。19世紀の初めにイギリスの外交官エルギン卿がパルテノンから削り取ってイギリスに持ち帰りました。紀元前5世紀の大彫刻家フェイディアスによって作られました。唯一の原作です。傑作と言われています。

馬の頭部

(The Sculptures of the head of a horse)
展示室18の右隅には馬の頭部像が置かれています。これはパルテノン東側の一部を成していたものです。イギリス政府が1816年に買い取ったパルテノンの彫刻に含まれていたものです。紀元前400年代に製作されたと推定されており、生き生きした表情をしています。細工が優れています。
この辺りには美しいギリシャ彫刻がたくさんあります。

イースター島のモアイ像

(Easter Island Statue)
グレート・コートに戻り展示室24に入ります。モアイ像は11~17世紀に、チリのイースター島でポリネシア人たちによって作られました。一枚岩です。現地では「ホア・ハカナナイア」と呼ばれていました。英国が1860年代に持ち帰ったものです。大きく立派です。背中側には鳥を思わせる表現があるようです。

ウルの「王墓」

(The ‘Royal tombs’ of Ur)
展示室56にはメソポタミアにあった古代都市ウルで発掘された展示物があります。イギリスの考古学者ウーリーがスタンダードの墓から発見した箱が「ウルのスタンダード」と呼ばれるものです。紀元前2700年頃に製作されました。当時、上流階級の人たちは埋葬するとき、きらびやかな装身具や立派な遺物も一緒に入れました。用途は不明ですが表裏に人物たちの細やかな表現がされています。

サブローが見たかった「藪(やぶ)の牡山羊」という像もそういった遺物の一つです。木に前脚を載せてこちらを見つめている姿が可愛らしいです。家具を支えていたものと言われています。牡山羊の顔や脚には金箔、角や目にはラピスラズリが使われています。木や銀、貝殻、石灰岩なども使われています。高さは45センチメートルです。

ルイスのチェス駒

(The Lewis chessmen)
展示室40はイギリス式の3階にあります。ヨーロッパの展示室にぐるりと回り込むように移動しました。ここには中世ヨーロッパのチェス駒があります。王や王女、騎士などが表情豊かに作られています。セイウチの牙でできています。1800年代にスコットランドで発見されました。スカンジナビアで作られたものと考えられています。

このチェス駒が大人気なのには理由があります。それはイギリスをモデルに制作された大ヒット映画の中で魔法使いが使うチェス駒として作品中で展示物とそっくりのものが使われているからなのです。レプリカはお土産物として販売されています。

日本の展示室

(Japan・From prehistory to the present)
イギリス式5階、展示室92~94は日本に関する展示です。葛飾北斎などの浮世絵が見られます。時には日本美術の企画展も行われて人気があるようです。縄文の土偶・銅鐸から弥生の埴輪、平安時代の彫像、陶器、江戸時代の着物、能面、歌舞伎俳優画集、根付などもあります。その他として茶室、和楽器、現代の漫画まで、さまざまな展示品があります。外国人観光客たちが興味深げに眺めていました。

ここには少し書道的な展示もあり、書道好きのチエコには嬉しい見学場所でした。「敬愛」と書かれた大きな書道作品が目を引きました。「和英庵」と書かれた茶室もありました。

サブローもすっかり満足しました。博物館を出たころにはもう暗くなっていました。

「夕食を食べに行こうか?」

「そうね、なんだかお腹が空いたわ。」

「随分歩いたね。」

「ええ、脚が棒になるくらい!」

二人で少し笑いました。

(つづく)

良い旅を!

※ この短編小説はフィクションです。
参考文献:講談社 『 世界の博物館6 大英博物館 』

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