みちのく・弘前にて 5(旅行連載小説 短編)

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実家にて

サキが歩いて行くと久しぶりに帰る実家が見えてきました。サキの家は在来工法で建てられた住宅です。子供の頃から何も変わっていません。玄関の扉を開けるとき少しだけ躊躇(ちゅうちょ)してしまいました。けれども思い切って開けました。

「ただえま!」(ただいま!)

サキは今回帰ることを知らせてありませんでしたから両親は少し驚いていました。

「やあ、おかえりまれ。」(やあ、おかえりなさい。)

と母が迎えてくれました。

「知きやせてけだきや駅まで車で迎えサ行ったばて(知らせてくれたら駅まで車で迎えに言ったのに。)

と父も言いました。なんだか少し嬉しそうです。

「ゆ沸いてらし、入ってかきやごはんでいがの(お風呂沸いてるわよ、入ってからごはんでいいかな?)

「んだ。ありがどーごし。んだすらきゃ。」(うん。ありがとう。そうするね。)

サキは自分の部屋に入りました。部屋は前回帰省した時のままにしてくれてありました。空気の入れ替えや掃除もしてくれてあるようです。いつもの自分の部屋は落ち着きます。荷物を床に置き、長座布団の上に座ってみました。壁にはサキが描いたイラストやあこがれていたデザイナーの素敵な作品の写真などがたくさん貼ってありました。

(デザイナーか。あこがれたよねえ。でもなれなかったなあ・・・。)

立ち上がると上着を脱いでハンガーに掛けました。着替えを持って浴室に向かいました。

(ここは昔のままで、何にも変わらないなあ。時が止まってるようだわ。)

久しぶりに入る我が家のお風呂はとても気持ちが良かったようでした。東京ではカラスの行水だったサキにしては長風呂でした。

(なんか、悪いものが全部流れてしまったような心地がするなあ。気持ちいい~。)

とても良い気分でお風呂から出てきました。

「ごはんできたわし~。」(サキ~?ごはんできたわよ~。)

「はーい、今行きま~す。」(はーい、今行きま~す。)

昔は毎日こんなふうに呼ばれていたなあとサキは懐かしく思いました。サキは居間に行きます。

「今日はイカメンチし。」(今日はイカメンチよ。)

「私、イカメンチ好きし。」(私、イカメンチ好きよ。)

「んだきゃわらしの頃かきや好きだったしきゃ。」(そうね、子供の頃から好きだったよね。)

「デザートサはアップルパイもあらぞ、父ちゃの友人がたまたま今日遊びサきたんだげれど、お土産サいただいたんだし。な好きだったしきゃ。」(デザートにはアップルパイもあるぞ、父さんの友人がたまたま今日遊びにきたんだけれど、お土産にいただいたんだよ。お前好きだったよね。)

「んだ。ありがどーごし。」(うん。ありがとう。)

「なが帰って来らごどが分っていたっきゃ、ごちんだば用意したばて・・・。」(あなたが帰って来ることが分っていたら、ごちそうを用意したのに・・・。)

「めやぐしたな、かっちゃ。急サ帰りたぐなたものだかきや・・・。」(ごめん、おかあさん。急に帰りたくなったものだから・・・。)

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「向こけななんがあっっだのだな(向こうで何かあったのか?)

「んだ・・・。」(うん・・・。)

そのあと、サキは両親の前で会社が倒産して仕事がなくなったことや株を失ったこと失恋したことなどを正直に話しました。

「んだか、それはてえぱだだったのあ。」(そうか、それはたいへんだったなあ。)

「体は壊していね?」(体は壊していない?)

両親はそう言いました。

「んだ、体は健康。心もたぶん大丈夫。」(うん、体は健康。心も多分大丈夫。)

「へばいいけいれど、向こけな特サアテがねだばこっちへ帰ってきてもいいぞ。)」(それならいいけれど、向こうで特にアテがないならこっちへ帰ってきてもいいぞ。)

「んだし、こごはなのえのんだかきやいづだば戻っておいで。」(そうよ、ここはお前の家なんだからいつでも戻っておいで。)

「んだ、ありがどーごし。」(うん、ありがとう。)

「父ちゃはまだバスの仕事してらかきや、一人ぐきや家族が増えても大丈夫だぞ。それサもし、なが望むだばまだうちの会社で社員の募集してらかきや間サ合うぞ。」(父さんはまだバスの仕事してるから、一人くらい家族が増えても大丈夫だぞ。それにもし、お前が望むならまだうちの会社で社員の募集してるから間に合うぞ。)

「んだ、ありがどーごし、だばわんつか考えてもいがのあ。」(うん、ありがとう、でもちょっと考えてもいいかなあ。)

「もちろん、なの問題だかきやよぐ考えていいんだぞ。」(もちろん、お前の問題だからよく考えていいんだぞ。)

「私はサキが帰ってきてぐれらどうれしいんしたばっての(笑)」(私はサキが帰ってきてくれるとうれしいんだけどな(笑))

イカメンチはミンチにしたイカと片栗粉、玉ねぎで作ったメンチカツのようなもので弘前名物です。あいかわらず風味も良く安定したおいしさでした。アップルパイも甘くておいしかったです。青森はリンゴの産地ですから・・・。

「サキがわらしの頃、じぇんこの苦労ばさせてまねかきや、今サなてじぇんこば追いかつもっけるしうの生き方ばすらしうサなてまねのかのあ。父ちゃのせいでめやぐしたなの。)」(サキが子供の頃、お金の苦労をさせてしまったから、今になってお金を追いかけるような生き方をするようになってしまったのかなあ。父さんのせいでごめんな。)

「おどは都会へ出稼ぎして家族ば支えてけだのし。」(お父さんは都会へ出稼ぎして家族を支えてくれたのよ。)

「わかってらし。」(わかってるよ。)

どんなときでも親はいつも心配して味方になってくれる。その安心感がサキは嬉しかったです。やっぱり、大事なことは親に正直に話したほうがいいんだなあ。と思いました。

その晩は自分の部屋で安心して本当に深く眠ることができました。

(つづく)

良い旅を!

※ 会話部分は津軽弁にしています。もしも言葉や言い回しが間違っている場合はお教えいただければ正しく直して参ります。よろしくお願いいたします。

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