グアム・デイズ ⑦(旅行 連載小説 短編)

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ミウの交渉

ミウは、はたと気づきました。2~3日後に帰ることができるのは嬉しいけれど、それまでお金がないのでどうやって暮らせばいいのかと。少し悩みましたが思い切ってお願いしてみることにしました。

「あの、言いにくいんですが、私、帰るまでの間、お金がないので泊まることも食べることもできないんです。どうしたらいいでしょうか?」

とても悲しそうな顔でマナトを見つめます。

「う~ん。寸借詐欺じゃないみたいだし・・・。」

マナトは少し考えました。どうやら悪い人ではなさそうだし本当に困っているようですから助けてあげたいと思いました。

「僕がなんとかするから心配しなくていいよ。」

「いいんですか?」

「うん、いいよ。ただ、日本に帰ったらその分のお金返してくれるかな?」

「はい、もちろん!」

「そしたら、まずは泊まるところを探そうか?」

「はい!」

「どこがいい?」

「マナトさんと同じ宿でお願いします。こんなことがあって一人だと不安なので・・・。」

「そうだね、シングルのお部屋でいいかな?」

「はい、お願いします。」

マナトの泊まっている宿まで、またタクシーで移動しました。

マナトがカードを見せて、彼女のためにもう一部屋の宿泊追加をお願いすると、意外にもあっさりとシングルの部屋が取れました。同じフロアでした。

二人でランチ

マナトとミウそれぞれの部屋にそれぞれの買い物の袋を置いてから、2人でレストランに向かいます。遅いランチを食べることにしました。洋風のランチを食べながら話をしました。

「一人でグアムに来たの?」

「ええ、海が好きなので一人で来ました。」

マナトは「海が好き!」と言っていたお姉さんを思い出してしまい、なぜか少し笑ってしまいました。

「はははっ。最近ぼくの周りには海の好きな人がよく現れます。」

「え?」

「いや、この宿に泊まっていた人が同じことを言っていたから・・・。」

「そうですか。やっぱり海って良くありませんか?」

「そうだね。ほんの少しだけ海が好きになってきました。」

「マナトさんはどうしてグアムへ来たんですか?」

「ははっ。痛いとこ突くね。」

「あっごめんなさい、いけないこと聞いてしまったかしら。」

「ううん、いいんだよ。」

「それならいいんですが・・・。」

「恥ずかしい話なんですよ。彼女と一緒に来るはずだったんだけど、成田に彼女来なくて、新しいお金持ちの彼氏ができたとかで完全に振られてしまったんですよ。それでやけくそでグアムへ来たってわけ。」

「まあ!そうだったんですか?かわいそう。それはたいへんでしたね。」

「でもね、グアムの海で泳いだり、ツアーで観光名所を巡ったりしているうちに少しだけ元気になったかな?おかげ様って感じかな?」

「そうでしたか、良かったですね!」

「君は何日位ここに滞在していたの?」

「2日です。」

「そうか、じゃあ観光はだいたい済んだってとこかな?」

「はい、まだ見ていない所もあると思いますが・・・。」

「海、どうだった?」

「それはもうきれいな海を見ることができましたよ。」

「泳がなかったの?」

「はい、海を見るのが好きなので・・・。」

「そうでしたか、海は眺めるのが好きって感じですか?」

「そうですね。」

「そうだ、恋人岬って行って見た?」

「いいえ、ツアーには入っていなかったので・・・。」

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「僕もまだ行ってないんですよ。恋人同士じゃないけど一緒に行って見る?海がとてもきれいに見えるらしいよ!」

ガイドブックをしっかり読んだのが役に立ちました。

「いいですね、行きたいな。その分の費用も日本に帰ったらお支払いしますから。お願いしてもいいですか?」

「いいですよ、でもまあこれは僕が言い出したことだからこの分は僕に負担させてください。」

「ええっ?いいですよ、帰ったらちゃんとお返ししますよ。」

「いいから、いいから。」

マナトは東京でサキさんにさんざんおごらされてきたので、おごったり、ご馳走したりする癖がすっかりついてしまっているようです。

恋人岬へ

ランチを済ませて二人は恋人岬に向かいました。

今度は時間がゆっくりなのでタクシーではなく路線バスを使って行くことにしました。開放感のあるバスでした。走って行くにつれて都市の風景から自然豊かでのどかな風景に変わっていきます。

「恋人岬にはとても悲しい話が伝わっているそうですよ。」
「どんなお話なんですか?」
「はい、昔、昔スペインがグアムを統治していた時代の話です。グアムにとても美しい娘がいました。ある日、その娘にスペイン人が結婚を迫ってきました。彼女は自分の恋人と逃げました。そして恋人とこの岬で髪を結び合って永遠の愛を誓います。二人はそのままこの岬から身を投げたそうです。悲恋の伝説ですね。」
「悲しいお話ですね・・・。」
ミウはとても悲しそうな表情をしました。
「でもね、二人はうまく逃れて生き延びたっていう説もあるんだそうですよ。」
「そうだといいですね!」
彼女は微笑みました。

30分ほどで到着しました。公園のような風景がひろがっています。展望台のあるほうへ歩いて行きます。入場料を払って展望台に登ります。階段を登ると、広い青空に水平線が見える深い青色の海原が広がっていました。左手には宿泊している宿のある辺りの市街地が遠く見えています。展望台の下からそのあたりまで白くさんご礁の海岸が美しく見えています。123mの断崖上から眺める恋人岬の景色はまさに絶景でした。二人は息をのみました。顔を見合わせて、

「すごいねこれ~!」

「絶景だね~!」

ずいぶん長い間二人は海を眺めていました。

「やっぱり海はいいねえ!」

「私、海が好きです!」

団体の観光客が大勢やってきて展望台は人でいっぱいになりました。

「そろそろ行く?」

「はい。」

二人は展望台を降ります。少し歩くと鐘がありました。誰もそこにはいなかったので興味本位で二人で鳴らしてみようかということになりました。

カーン カーン カーン

いい音が鳴り響きました。

また30分かけてタモン地区に戻ります。

ミウの買い物

彼女は荷物をすべて失っているので取り急ぎ必要なものを買う必要がありました。そこでマナトはミウの買い物に付き合うことになりました。化粧品、衣類、帽子、スーツケースなど意外にお金がかかります。もしかしたら海で遊ぶこともあるかもしれないからとマナトは水着とバスタオル、耐水性のある日焼け止めも買うように勧めました。

( クレジットカードの限度額を上げておいて本当に良かった。でもやっぱり僕はグアムで女の人の買い物に付き合っているんだなあ・・・。)

少し不思議な気分になりました。気がついたらサキさんとではなくミウさんとグアムで買い物をしているマナトなのでした。

(つづく)

良い旅を!

 

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