グアム・デイズ ③(旅行 連載小説 短編)

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グアムの朝

マナトは目が覚めました。昨日の服装のままベッドの上にいました。微妙に疲れが取れていない感じもします。でも、ゆっくりと一つ全身で大きな伸びをしたらすっきりしました。

( あれっ?ここはどこだっけ、そうだ、ここはグアム。 あっそうか僕はサキさんに振られたんだったっけ。そしてここへ来た・・・。)

「うーん!」

意味不明なうなり声を出してみてから起き上がりました。

窓辺に行き窓を開けてみます。広がる青い海と広い空がそこにはありました。少しだけ湿気を帯びてはいるけれど朝の気持ちよい風が吹いています。眼下にはヤシの木と白い砂浜、まだ海水浴をしている人はわずかなようです。意外にも早起きをしていたのです。時計を見ると6時半でした。

コーヒーメーカーに水とコーヒーのカートリッジをセットして電源を入れました。

(とりあえずシャワーを浴びよう。)

目覚ましに少し熱めのシャワーを浴びました。

朝食を済ませたら少しだけ海に入りたいなと思いました。なので、サーフパンツとちょっと派手なラッシュガードを身に付け、ビーチサンダルを履いてから、ルームサービスを頼みます。サンドイッチとヨーグルトを持って来てもらうことにしました。その後、ソファーの背もたれにリラックスしてよりかかり、足を延ばして座りました。今日のこれからを考えます。

(そうだ、散歩して海に入って、そのあと今日だけ一日島内観光があったんだったっけ? )

しばらくするとコーヒーの良い香りがしてきました。

やがてノックの音が聞こえました。サンドイッチが届きました。チップを渡すと「Have a good day !( 良い一日を!)」と笑顔で言われました。「Thank you so much ! ( ありがとう。)」と答えました。

( ほんとだよ、ほんとにいい一日になってほしいよ。)

サンドイッチはボリュームがありました。ヨーグルトはいつも食べているものとは風味が少し違っていて爽やかな感じでした。

( とてもおいしい!サキさんにも食べさせてあげたいな。)

あんなにひどい振られ方をしたのにそんなことを思う自分がどうかしていると思いました。未練がまだあるようです。

サンドイッチをゆっくりと食べます。そして良い香りのコーヒー。

( こんなにゆったりとした朝ごはんは今までに無かったなあ・・・。)

食べ終わるとベッドサイドに枕銭のチップとしてコイン数枚を置きました。さっき思ったとおり、島内一日観光が始まる時間まで宿の周辺を散歩して海に入ることにしました。大判のバスタオルだけを持って行きます。鍵はフロントに預けて行きました。

宿を出てビーチのほうへ歩いてみました。ちょっと暑いけれどそれも南国という感じで気持ちよいものですね。ヤシの木が風にそよいでいます。空はどこまでも青く、遠くに見える雲は白く、照りつける朝の太陽が目にまぶしいです。

汗だくでジョギングをしている人がいました。

(こんなに暑いのに・・・。よく走るよなあ・・・。)

現地の人は暑さに強いのかも知れないと思いました。それにしても薄着でも歩くと十分に暑い。

(これはやはり泳ぐしかないなあ。)

ひとり海水浴

ビーチは宿のプライベートビーチなのです。ビーチはまだ朝ですが海水浴をする人が徐々に増えてきているようです。海水浴をする人たちの水着や水上の遊具はどれもカラフルで目立ちました。家族連れが多いようです。

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ビーチは楽しそうです。しかし、一人で海に入って楽しいのかどうか?少し迷いましたが、海を見ていたらなんだか海に入りたくなってきました。よく観察していると、皆自分たちで楽しむことだけしか考えていなくて、マナトに関心のある人は誰もいないようです。

(そういうことなら僕も海へ入ってみよう!)

砂浜から海へ入ります。本当は砂浜に荷物は置いておかないほうが良さそうですが、それほど人が多くないので、タオルとビーチサンダルは砂浜に置いておくことにしました。ラッシュガードを着ていれば少し日焼けも防げるのですが、失恋の痛手で破れかぶれなところもあるので、日焼けなど、もうどうでもいいと思っていました。現にお徳用サイズの日焼け止め製品が宿に置いてきたスーツケースには入っているのですが、まったく体には塗ってきませんでした。そういうわけなのでラッシュガードも砂浜に一緒に置いていくことにしました。

貴重品のクレジットカードと防水の透明な小袋に入れた数枚のコインはサーフパンツのファスナーが閉まるポケットに入れてありましたから何も心配ありません。

一人で準備運動するのは微妙でしたが照れずに体を動かしておきました。さあ海に入ってみます。海はほどよく冷たくて気持ちよいものでした。仰向けでプカプカ浮かんでいると打ち寄せる波が静かにマナトの体を揺らし続けてくれました。初めはサキさんで一杯だった頭がなんとなくだんだんからっぽになっていくような気がしました。嫌なことをすべて忘れてしまえそうな気分になってきました。でも同時にサキさんを忘れてしまうのも悲しいことだなと思いました。

ボーッとして渚で浮かんでいると、昨夜、エレベーターで話をしたお姉さんのことを思い出しました。「海が好きだから!」という言葉がなんだかとても印象に残っていて、こうして浮かんでいるだけでも彼女の「海が好き!」の1%くらいは解りかけた気がしました。

そのとき柔らかい何かが頭に当たりました。ビーチボールです。底に足をつけて立ち上がるとカラフルなビーチボールがマナトの近くに浮いていました。周囲を見ると日本人の保育園児くらいの男の子がビーチボールを返して欲しそうな顔でこちらを見ています。近くにはご両親もいるようです。マナトよりも後からビーチに来たようです。

「行くよ~!それっ!」

マナトはビーチボールを投げてあげました。

「ありがと、お兄ちゃん!」

満面の笑みでそう言ってくれました。

「どういたしまして!」

ご両親も笑顔で会釈をしてくれました。

マナトも笑顔で会釈します。

なんでもないことなんだけれど、一人ぼっちのマナトにとってはちょっとだけ暖かいコミュニケーションができて、なんだか少しだけ救われたような気がしたのでした。

その後しばらくその辺りで泳いだりしていましたが、島内一日観光の集合時間が気になります。スマートフォンも腕時計もしていないので時間はよく判りませんでしたが、そろそろ行ったほうが良いかな?と思いました。

海を出ると大判のタオルで全身の水を拭き取り、その大判タオルをはおりラッシュガードは手に持ちサンダルを履いて宿に戻ります。宿の建物に入る前にラッシュガードを着ました。部屋に戻るとシャワーを浴びて出かける支度をします。サーフパンツは洗って干しておきました。

ふと思いました。

( あっ!一人でもリゾ-トで海水浴ができてしまったぞ!)

(つづく)

良い旅を!

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