エスカルゴの店へ
サブローはスマートフォンを使ってエスカルゴを食べることのできるお店を探しました。ルーブル美術館を出るとそこはリヴォリ通りでした。交差点まで歩くとルーブル通りとの交差点でした。左に曲がります。ルーブル通りを北上します。エティエンヌ・マルセル通りとの交差点を右折。エティエンヌ・マルセル通りを東に向かいます。モントルゲイユ通りとの交差点を右に曲がるとすぐ左手にそのお店はありました。到着したころには夜の7時を過ぎていました。入り口の屋根に黄金に輝くエスカルゴのオブジェが乗っていました。
「あなた、屋根の上のカタツムリ、可愛いわね。」
「ああ、そうだね、あれがエスカルゴなのかな?」
二人でお店に入りました。お店の造りはとても落ち着いていて上品な印象でした。有名店のようなので大盛況。予約なしだったので不安になりました。ギャルソンさんにお願いしてみると笑顔で大丈夫だと言ってくれました。奥の方に空席があり、そこへ案内されました。座ることができて良かったです。エスカルゴと ローストチキン、パン、デザートを頼みました。
「たまたま予約なしても座れたけれど、本当は事前に予約を入れておいた方が良かったかもしれないね。」
「そうね。」
エスカルゴは香辛料の香りも良く、温かく貝のような食感でした。チエコは本場のエスカルゴは初めてだったのでとても美味しいと思いました。二人は大満足しました。
「私、エスカルゴをもうちょっと食べたいなと思うけど、この位でやめておく方が良いのよね。たぶん。」
「そうだね、僕も同じ気分だよ。」
「いつかまた来ることができたらいいわね。」
「君はずいぶん気に入ったんだね。」
「そうね、心に残ったわ。」
「実はね、僕も若いころに一度このお店に来たことがあるんだよ。僕ももう一度ここへ来たくてね・・・。」
「そうだったの。」
「歴史のあるお店なのね。」
「そうだね。君と僕にも歴史があるけどね。」
「そうね (笑)」
夜の通りを歩く
店を出るとエティエンヌ・マルセル通りを更に東へ歩きます。人通りが大分少なくなってきています。
二人が歩いて行くと。途中の路上で少年達が5人ほどたむろしていました。少年ですが体格は大人のようです。チエコとサブローが通り過ぎるとわらわらと二人の周りを取り囲みました。二人はそれでも歩き続けます。チエコは意外にも無表情です。サブローは少年たちのリーダーとおぼしき人物にフランス語でおだやかに言いました。
「Bonsoir Monsieur,comment allez-vous?(ボンソワ ムッシュ、 コマンタレブー。)」
その少年は言いました。
「Tres bien merci,et vous?(トレビアン、メルスィー、エ ヴ?)」
サブローは答えます。
「Moi aussi,ca va.(モワ オスィ サ ヴァ。)」
少年は言いました。
「Bonne nuit.(ボンヌ ニュイ。)」
サブローも言いました。
「Bonne nuit.(ボンヌ ニュイ。)」
と言いました。
そのリーダー格の少年は仲間に合図をすると手下全員を連れて元いた場所へ戻って行きました。二人はまた歩き出しました。二人はさっきより無口になってしまいました。チエコは少し震えています。サブローは歩きながらチエコの腰に手をまわしてチエコを引き寄せました。
宿に到着
サン・トニ通り、ロンバール通りと歩き宿に戻ってきました。時間も9時ころだったので二人の服装では少し寒かったです。まもなく宿につきました。
ロビーに数人の人相の悪いフランス人がたむろしていましたが気にせずサッと通り過ぎます。
部屋に入ると安心したのかチエコが言いました
「今、ロビーにいた人たち怖かったわね。」
「そうだね。思いっきり怪しかったね。」
「そうだ、さっき少年たちに囲まれたんだけど、あの子たちは何だったの?」
「なんなんだろうなあ、私たちにスキがあれば何かしたかったんだろうなあ。遊ぶお金が欲しかったとか?」
「そうなのね。やっぱり!」
「ごめんね。タクシーに乗った方が良かったかもしれないんだけど、タクシーがあんまり走っていなかったんだよね。」
「そう。まあ、それほど遠くはなかったんだけどね。でもちょっと怖かったわ。ところでさっきはあなた、少年たちになんて言ったの。」
「いや、ただの挨拶さ。日本語で再現するとこんな感じ。
[こんばんわ、元気?]
[ありがとう元気だよ。おじさんは?]
[私も元気だよ。]
[おやすみ。]
[おやすみ。]
という具合かな?」
「そうだったの? 私、何か怖いことを言って追い払ったのかと思ったわ。」
「いやあ、おとなしそうなグループだったからね。いつも、ああいう方法で乗り切れるわけではないんだけどね。もっと強く出た方がいい場合もあるし、場合によっては黙っていた方がいいこともあるよね。一番いいのはああいう状況に出くわさない行動を選ぶことだよね。怖い思いをさせてごめんね。」
「ううん。あなたと一緒なら大丈夫よ。」
「ありがとう。それにしてもあのとき君が無表情でいてくれて助かったよ。君も度胸あるね。」
「そうかしら。度胸じゃないんだけれどね、[怖いときほど怯えてはいけない]と書道の先生に言われたことがあるのよ。」
「そうか。頑張ったんだね。ありがとう。書道でも怖くなる時があるんだね。」
「慣れない文字は緊張するし、間違えたらいけないと思うと怖くなる時もあるのよね。ちょっとだけどね。」
「そうなんだね。思わぬところで役に立ったんだね。」
「そうね。役に立ったんなら良かったわ。」
「彼らは悪さをするんだけれど、主に観光客を狙っているんだよね。パリの事情に明るい地元住民に手を出すと後が怖いからね。花の都パリと言ってもここは狭い世界だから。」
「そうなの?」
「うん。僕がフランス語を話せると思ってくれたみたいで、面倒なことになるのを避けるために手を引いてくれたのかもしれないね。」
「ふうん。でもやっぱり怖かったわ!」
「ごめんね。でもね、僕は手ぶらで、君も薄いバッグをジャケットの下に隠していたし、大きな荷物も持っていないし、パリに住んでいる人のようにスマートな行動をしていたから狙いにくかったとは思うよ。」
「そう。ならいいんだけど。」
「怖い思いをさせてごめんね。明日はもっと安全な行動を心がけるね。」
「うん。でも、あなた頼もしかったわ。」
「ありがとう。」
(つづく)
良い旅を!